なぜ、日系企業の社員は外資系企業に高給与で引き抜かれてしまうのか?

採用に関わる日本人の多くが、自社で時間とコストをかけて育てた社員が、外資系企業からの高額オファーを受けて退職するという経験を一度はしているのではないでしょうか。
今回は、フィリピンにおける「日系企業 vs 外資系企業」の採用競争に焦点を当て、その背景にある構造的な違いをご紹介します。
日系企業と外資系企業の人事戦略は根本的に異なる
フィリピンをはじめとする新興国市場では、「日系企業」と「外資系企業」の間で、人材の採用・育成・評価・報酬に関する考え方が大きく異なります。
日系企業は「育てる文化」
日系企業は、新卒採用を中心とした人材育成型の文化を持っています。
充実したトレーニング制度のもとで、若手人材を育てていくことを前提とし、雇用の安定性が高く、安心して働ける環境が整っています。
一方、昇給率は緩やかで、経営層の多くは日本人が占めており、現地スタッフの昇進は部門長までにとどまることが多いです。現地法人の社長や役員にローカル人材が就くことは珍しいです。
外資系企業は「即戦力主義」
外資系企業は即戦力人材の採用を前提としており、新卒採用はほとんど行いません。
トレーニングにコストをかけない代わりに、スキルと経験を持った人材を市場から高待遇で採用します。成果を出せば国籍や年齢に関係なく重要なポジションを任せます。
一方、期待に応えられなければすぐに契約を終了されるケースもあります。実力主義であると同時に、雇用の安定性には欠ける側面があります。
育成にお金をかけない分、人件費に対しては柔軟に予算をかける。これが外資系企業の基本スタイルです。
日系が育て、外資が引き抜くという構図

外資系企業は基本的に新卒を採用しないため、日系企業も新卒トップ層の人材を採用することができます。日系企業は優秀な新卒人材を確保し、トレーニング制度のもとで3〜5年かけてしっかりと育成します。
しかし、育成された人材は、スキルと経験を積んだタイミングで外資系企業から声がかかります。
外資系企業は2倍近い給与を提示することもあり、ピンポイントで引き抜いていきます。
このようにして、日系企業は結果的に、外資系企業にとって理想的な人材の供給源となってしまっているのが現状です。
年齢とともに広がる給与差の実態
弊社RCX Recruitment が実施した独自調査では、25歳以下の若手人材の給与は日系・外資で大きな差がない一方、年齢が上がるほど、日系企業と外資系企業の給与に大きな差が出ることが明らかになりました。
- 25歳以下:外資は1.05倍(例:日系20,000PHPに対して外資21,000PHP(1.05倍)
- 30〜39歳:外資は1.35倍
- 40〜49歳:外資は1.49倍
- 50〜59歳:外資は1.54倍
この数字は全職種の平均値ですが、マネージャー職やIT・会計などの専門職においては、2倍〜3倍の給与差になることも珍しくありません。

「全員を同じように守る」という発想を見直す
採用競争に勝つために外資系企業と同じように給与で勝負し続けるのは、現実的ではありません。
たとえ一時的に高い報酬で引き止められたとしても、さらに高いオファーがあれば再び退職する可能性が高いからです。
全社員の給与を底上げすることは、コスト面でも継続性の面でも非常に難しく、企業としての健全な運営を損なうリスクがあります。
そのため、優先すべきは「すべての社員に一律に評価する」という考え方を見直すことです。
将来的に会社を担っていくキーパーソンに対しては、別の評価軸や昇給制度を用意し、特別な対応を検討する必要があります。
日系企業には、外資にはない強みがあります。
たとえば、安定した雇用環境や丁寧な人材育成制度、そして長期的な視点での人間関係づくりなどです。
これらの価値を活かしながら、柔軟に制度を見直し、優秀な人材に選ばれ続ける企業を目指すことが、今後の競争環境で勝ち残る鍵になるでしょう。