海外法人トップに必要な経理スキルは?

海外法人運営において、親会社と現地法人の間に挟まれ、
現地法人の社長が、経理業務に時間を取られてしまうことはありませんか。

よっぽど大きな会社でない限り、経理専門の日本人はいないため、
現地法人の社長が親会社への会計報告などをすることが多いと思います。

しかしながら、海外に派遣される日本人トップの多くが営業や技術出身で、
会計や経理を体系的に学ぶ機会がないまま、赴任するため、慣れない経理に時間を取られ、
本来時間を使うべき事業推進やマネジメントに十分な時間が取れないというケースがよくあります。

私は30代のときに会計事務所に8年間勤務し、
ベトナムの日系企業の会計業務のサポートをしてきたのですが、このような事例を多数見てきました。

そこで、海外法人トップが最低限押さえておくべき会計・経理の5つのスキルについてまとめてみました。

1. PL・BSの基礎的な知識
2. 現地での税金の理解
3. 予算管理能力
4. 各費用の支払いの承認
5. 売掛債権管理

目次

1. PL・BSの基礎的な知識

まず一番最初に押さえるべきとしては、PL(損益計算書)・BS(貸借対照表)への理解となります。

PL・BSといっても、難しく考える必要はありません。
具体的にトップが押さえておくべきポイントは以下の通りです。

1. PL・BSの表の見方・構造を理解する
2. 自社の海外法人のPL・BSに記載されている勘定科目の意味を理解する
3. 何にいくら費用を使っているかを月次PLベースで把握する

全体の1%を超える主要な科目に絞れば、必要な勘定科目は約30項目です。
会計用語を覚えることが、海外で必要な会計・経理スキル獲得の第一歩となります。

2. 現地での税金の理解

税金に対する理解はハードルが高いと感じるかもしれませんが、
全てを抑える必要はありませんし、ましてはご自分で税金の計算などする必要はありません。

ただし、少なくとも以下の2点を抑える必要があります。

1. フィリピンで申告すべき税金の種類
2. 上記の申告タイミングと期限

フィリピンでは、法人税、消費税、個人所得税、源泉税、事業税、関税などが主要な税金となり、
支払いのタイミングは月次、四半期、半期、年次のいずれかとなります。

どの税金をどのタイミングで支払うかを体系的に把握しておくことが重要です。
そうすることで、払い漏れを防ぎ、予期せぬ追徴課税を避けることができます。

税務調査が不透明なフィリピンにおいて、納税への正しい理解は、最も重要な経理業務の一つとなります。

3. 予算実績管理

私が見る限り、予算管理についても多くの現地法人社長が時間を取られております。
よく起きている問題として以下のものがあります。

・現場から正しい数字が出てこない
・本社に説明を求められるが、適切な説明ができない。
・現場に確認しても求める回答が返ってこず、本社との間に挟まれ、時間を消耗している。

通常、予算は売上、費用(勘定科目別)、利益(主に営業利益)を月次・年次で作成し、
予算と実績を付け合わせていくかと思います。

ここで必要なスキルは以下の3点です。

1. 予算と実績の差異を分析する能力
2. 差異の要因を関係者(本社)に説明する能力
3. 差異を元に改善プランを立案する能力

一見難しそうに見えますが、これらも正しいトレーニングを受ければ、習得できるスキルとなります。

4. 各費用の支払いの承認

適切な経費支払の承認フローをする必要があります。
具体的には、経費支払を起案する人と、支払いを承認する人を分ける必要があります。

一人の経理が支払い起案と支払い承認を行っている場合、
不正をしようと思えば、不正をすることができます。

会社としてやるべき対策は、

1.社内体制(現地法人側)の整備

経理業務が1人で完結できないプロセスを確立する。
(支払い担当と入金担当を分ける、責任者が支払い承認、一定以上の金額は動かせないなど銀行設定するなど)

2.本社チェック機能の強化

本社からの内部統制体制、ダブルチェック機能の体制を構築する。

3.外部機関の活用

さらに記帳代行・月次決算は会計事務所にアウトソースし、外部の目も入れるとなお良い。

承認プロセスが不十分だと、コストの増加や不正の温床になる可能性があります。

5. 売掛債権の管理

売上が発生しても、顧客からの入金がなければ今までの努力が水泡に帰します。
そのため、債権管理は地味ではありますが非常に重要です。
(フィリピンでは、売掛債権を「AR(Accounts Receivable)」と呼ぶことが多いです)

債権回収漏れが発生する主な理由としては、次の3点が挙げられます。

1. 請求書の発行漏れ
2. 顧客による支払い漏れや未払いの理由がある場合
3. 債権漏れのモニタリング体制がない

結果として、何年も債権が回収されずに放置され、気づいた頃には、今更回収不可能という事になりかねません。
このような漏れを防ぐため、経理スタッフからの定期報告体制を整備し、売上債権を正しく管理することが必要です。

まとめ

経理とは文字通りの「経理管理」の略であり、経営を理解することに直結します。
正しく経理を理解することで、財務諸表をもとにした事業判断が可能となり、
現地法人トップとしての、より適切な経営判断が可能となります。
会計・経理のスキルを身につけることで、現地法人の経営を円滑に進め、経営者としての能力を高めることができます。

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