タイ人採用で差がつく福利厚生とは?|日系企業287社の導入実態と重視すべき4つのポイント

タイで採用活動を行う日系企業の人事担当者や経営者の皆さんは、「同じような職種・給与水準の求人が並んだとき、最終的に候補者が何を決め手にするか」を考えたことはあるでしょうか。優秀なタイ人材は複数社から内定を得ることが多く、最後の一押しとなるのが福利厚生です。しかし、タイの福利厚生制度は日本とは前提が大きく異なるため、日本の感覚だけで設計すると候補者にとって魅力が伝わらないケースが少なくありません。
本記事では、弊社が実施した日系企業287社への調査結果をもとに、タイの日系企業がどのような福利厚生を導入しているのか、そしてタイ人が特に重視する4つの福利厚生について詳しく解説します。自社の福利厚生を見直すきっかけにしていただければ幸いです。
採用プロセス全体の中で、福利厚生をどのタイミングでアピールし、どう活用すべきかについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

この記事は、RCXのYouTube動画の内容をもとに再構成したものです。
タイ日系企業の福利厚生導入実態|287社調査データ
まず、他のタイ日系企業がどのような福利厚生をどの程度導入しているのかを把握しておくことが重要です。弊社が2025年4月に実施した日系企業287社を対象とした調査結果をご紹介します。以下の表は、製造業と非製造業に分けて、主要な福利厚生の導入率をまとめたものです。
| 福利厚生項目 | 製造業 導入率 | 非製造業 導入率 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 残業代 | 97% | 82% | タイ労働法で義務化、ほぼ標準装備 |
| 健康診断 | 94% | 77% | 年1回実施が一般的 |
| 食事手当 | 78% | 16% | 製造業は工場食堂の影響で高い |
| 皆勤手当 | 76% | 33% | 製造業ではライン作業のため重視 |
| 通勤費 | 76% | 72% | 業種問わず広く導入 |
| 社員旅行 | 66% | 52% | タイ人に人気、定着率向上に寄与 |
| 変動賞与(業績連動) | 63% | 56% | 約6割が導入 |
| 民間医療保険 | 62% | 73% | タイ人が重視、後述で詳しく解説 |
| 懇親会・食事会 | 56% | 59% | 月1回または四半期ごとが一般的 |
| 携帯電話・通話料金 | 55% | 59% | 営業職向けに多い |
| プロビデントファンド | 50% | 44% | 退職金積立制度、後述で詳しく解説 |
| 固定賞与 | 42% | 38% | 業績に関わらず支給 |
| 日本研修・視察旅行 | 16% | 13% | 導入率は低いが差別化要素になる |
この表を見ると、残業代や健康診断はほぼ標準装備であることがわかります。一方で、製造業と非製造業で導入率に大きな差がある項目もあります。例えば食事手当や皆勤手当は製造業で圧倒的に高く、これは工場の立地や勤務形態が影響しています。
しかし、これだけでは「結局何が重要なのか」がわかりにくいですよね。次のセクションでは、タイ人が特に重視する4つの福利厚生に焦点を当てて解説します。
タイ人が特に重視する福利厚生①|有給休暇の設計ポイント
日本とタイで大きく前提が異なるのが、有給休暇の制度です。タイの有給休暇は3種類に分かれていることをご存知でしょうか。多くの日本人駐在員がこの点を見落としがちです。
| 有給休暇の種類 | 法定最低日数 | 使用目的 |
|---|---|---|
| 通常の有給休暇 | 年6日 | 自由に使える休暇(企業の裁量で増やせる) |
| 病気休暇(シックリーブ) | 年30日 | 病気療養のための休暇 |
| 用事休暇(ビジネスリーブ) | 年3日 | 平日の行政手続き・免許更新などに使用 |
上記の表の通り、病気休暇と用事休暇はすでに法定で合計33日も確保されています。そのため、多くの企業は病気休暇30日・用事休暇3日を法定最低のまま設定しています。
問題は通常の有給休暇6日です。法定最低は6日ですが、これをそのまま設定すると候補者から「少ない」と思われるリスクがあります。では、相場はどのくらいなのでしょうか。
通常有給休暇の相場と設計例
弊社のお客様で最も多く設定されているのは年10日です。大手企業になると15日以上を設定しているケースもあります。しかし、スタートアップや中小企業にとって、初年度から10日を付与するのは現実的ではない場合もあるでしょう。
そのような企業では、勤続年数に応じて段階的に増やす設計が一般的です。例えば以下のような設計です。
- 初年度:6日
- 2年目以降:毎年1日ずつ増加
- 最大:10日(勤続5年目以降)
この設計により、初年度のコストを抑えつつ、求人票には「最大10日」と記載できるため、採用上の見栄えも良くなります。また、長く勤めてくれた社員には手厚く報いることができるため、定着率の向上にもつながります。
タイ人が特に重視する福利厚生②|民間医療保険の重要性
調査結果では、民間医療保険の導入率は製造業62%、非製造業73%でした。しかし、この福利厚生はタイ人が最も重視する項目の一つです。なぜでしょうか。
タイの医療制度の実情
タイにも公的な社会保険制度は存在しますが、日本の国民皆保険とは比較にならないほどカバー範囲が狭いのが実情です。公的保険では指定された公立病院1ヶ所にしか行けず、受診できても数時間待ちは当たり前です。一方、私立病院は医療の質が高く待ち時間も少ないですが、全額自己負担となり、医療費が非常に高額になります。
そのため、会社が民間医療保険に加入し、私立病院での医療費をカバーする制度は、タイ人にとって非常に重要な福利厚生なのです。導入していない企業は、従業員を大切にしない会社と見なされるリスクがあります。
民間医療保険の費用と選び方
保険のコストはパッケージにもよりますが、従業員1人あたり年間1万〜1.5万バーツ程度です。採用競争力の向上と従業員の安心感を考えれば、決して高くはありません。
さらに、一部の企業では従業員の家族まで適用範囲に含めているケースもあります。家族まで医療保険でカバーできることは、タイ人にとって大きな決め手となります。もし御社が家族適用を導入しているなら、必ず求人票に明記してアピールしましょう。
給与条件と合わせて、最終的なオファー交渉のフェーズで福利厚生をどう提示するかは、以下の記事で詳しく解説しています。
タイ人が特に重視する福利厚生③|賞与(ボーナス)の相場
タイ人は年収よりも月収を重視する傾向がありますが、賞与ももらえるならもらいたいというのが本音です。そのため、賞与の有無と金額は必ず確認されます。
賞与の相場と設計パターン
調査結果では、変動賞与(業績連動)の導入率が約6割、固定賞与の導入率が約4割でした。多くの企業は、この2つを組み合わせて合計2ヶ月分前後を支給しています。大手企業では5ヶ月分以上を支給するケースもあります。
| 賞与のタイプ | 相場 | 備考 |
|---|---|---|
| 固定賞与 | 年0.5〜1ヶ月分 | 業績に関わらず支給 |
| 変動賞与 | 年1〜1.5ヶ月分 | 業績・個人評価に連動 |
| 合計 | 年2ヶ月分前後 | 大手企業では5ヶ月以上も |
なお、営業職でコミッション制を導入している場合は、賞与の代わりにコミッションで還元するケースも多く見られます。この場合、求人票にコミッション体系を明記することが重要です。
タイ人が特に重視する福利厚生④|プロビデントファンド(退職金積立制度)
プロビデントファンドとは、退職金積立制度のことで、日本の確定拠出年金に似た仕組みです。調査結果では導入率は約5割でしたが、導入している企業は採用上の差別化要素として活用できます。
プロビデントファンドの仕組み
プロビデントファンドは、以下のような仕組みで運用されます。
- 毎月、従業員の給与から一定割合(3〜5%程度)を天引き
- 会社も同額程度を拠出
- 外部の運用会社が積立金を運用
- 一定期間後(退職時など)に、積立額と運用益を受け取る
タイの公的年金制度は日本と比べて薄いため、老後資金は自力で準備する必要があります。しかし、自力での貯蓄は難しいのが現実です。プロビデントファンドがあれば強制的に貯金ができるため、長く働きたいタイ人にとって非常に魅力的な福利厚生となります。
導入のメリット
導入率が5割程度であるため、導入していれば差別化につながります。特に、30代以上のミドル層や管理職候補を採用する際には、プロビデントファンドの有無が大きな決め手になることがあります。
福利厚生を採用競争力に変えるための3つのポイント
ここまで、タイ人が重視する4つの福利厚生について解説してきました。最後に、福利厚生を採用競争力に変えるための実践ポイントを3つお伝えします。
ポイント①|求人票に必ず明記する
どれだけ魅力的な福利厚生を用意していても、候補者に伝わらなければ意味がありません。求人票には、以下の項目を具体的に記載しましょう。
- 有給休暇の日数(初年度・最大)
- 民間医療保険の有無(家族適用の有無も明記)
- 賞与の支給月数(固定・変動の内訳)
- プロビデントファンドの有無と拠出割合
ポイント②|タイの前提を理解した設計にする
日本の感覚だけで福利厚生を設計すると、タイ人にとって本当に必要なものがカバーされないリスクがあります。特に、医療制度や年金制度の違いを理解した上で、タイ人のニーズに合った福利厚生を整えることが重要です。
ポイント③|段階的に充実させる
スタートアップや中小企業にとって、最初からすべての福利厚生を充実させるのは難しいかもしれません。その場合は、優先順位をつけて段階的に導入することをおすすめします。まずは民間医療保険と有給休暇を整え、その後、賞与やプロビデントファンドを追加していく流れが現実的です。
まとめ|タイ人採用で差がつく福利厚生の重要ポイント
本記事では、タイの日系企業287社の調査データをもとに、福利厚生の導入実態とタイ人が重視する4つのポイントを解説しました。福利厚生は、仕事内容や給与だけでは差別化が難しい場合に、最後の決め手となる重要な要素です。
- 有給休暇は3種類に分かれている:通常の有給休暇は法定6日だが、相場は10日。勤続年数に応じて段階的に増やす設計が現実的
- 民間医療保険は最重要:タイの公的医療制度は薄く、私立病院は全額自己負担。導入率67%だが、タイ人が最も重視する福利厚生の一つ
- 賞与は2ヶ月分が相場:固定賞与と変動賞与を組み合わせて支給。営業職はコミッション制で代替するケースも多い
- プロビデントファンドは差別化要素:導入率5割。老後資金を強制的に貯められるため、長期勤務を希望するタイ人に魅力的
- 求人票に必ず明記する:どれだけ良い福利厚生があっても、候補者に伝わらなければ意味がない。具体的な内容を必ず記載する
もし今回の内容を踏まえて、自社の福利厚生を見直してみようと感じていただけたなら、それだけでもこの記事を読んでいただいた価値があると思います。採用競争が激化するタイ市場において、福利厚生は採用力の源泉です。ぜひ、貴社の採用戦略に役立ててください。
弊社RCXでは、タイにおけるタイ人・日本人の採用支援を行っております。福利厚生の設計や求人票の作成、採用プロセス全体のご相談も承っておりますので、お困りのことがございましたらお気軽にお問い合わせください。
