タイ人採用の給与設定|日系・外資・ローカル企業の相場比較と総人件費を上げずに競争力を高める方法

タイで採用活動を行う日系企業の人事担当者や駐在員の方から、「優秀なタイ人を採用したいが、給与面で外資系企業に勝てない」「給与設定の相場がわからず、応募が集まらない」といった声をよく耳にします。確かに、外資系企業やローカル大手企業との競争が激化する中で、給与水準は採用成功の大きな鍵を握っています。
しかし、総人件費を大幅に増やすことは現実的ではありません。本社の予算や給与テーブルの制約がある中で、どうすれば採用競争力を高められるのでしょうか。実は、日本人がまだ知らない「タイ人の給与に対する考え方」を理解することで、総人件費を増やさずに魅力的な給与設定を実現することが可能です。
本記事では、タイで働くタイ人約2,500名を対象にした独自調査データをもとに、日系・外資・ローカル企業の給与相場、職種別・年代別の給与水準、そして総人件費を上げずに競争力を高める給与設定の具体策を詳しく解説します。
この記事は、RCXのYouTube動画の内容をもとに再構成したものです。
タイにおける給与相場を知ることが採用活動のスタートライン
タイでの採用活動において、職種・ポジション・エリアごとの給与相場を正確に把握することは、採用成功の大前提です。相場を下回る給与設定では、どれだけ魅力的な求人票を作成しても、適切な人材からの応募は期待できません。
日本で例えるなら、首都圏のコンビニアルバイトの時給相場が1,200円前後のところ、500円で募集しても誰も応募しないのと同じです。しかし、タイでの採用となると、職種ごとの相場が見えにくくなるため、自社の予算ベースだけで給与を設定してしまい、結果として人材が集まらないケースが頻発しています。
バンコクにおける日系企業の職種別給与相場(2026年)
以下は、バンコクの日系企業における職種別・階層別の給与相場(月収ベース・単位:バーツ)をまとめた表です。この相場は、日系企業で最も多く見られる給与レンジを示しています。
| 職種 | 新卒 | ジュニア | リーダー | マネージャー |
|---|---|---|---|---|
| 営業 | 20,000 | 25,000-35,000 | 40,000-60,000 | 60,000-100,000 |
| IT・エンジニア | 25,000 | 30,000-45,000 | 50,000-70,000 | 70,000-120,000 |
| 経理・会計士 | 25,000 | 25,000-35,000 | 40,000-60,000 | 60,000-120,000 |
| 一般事務 | 20,000 | 22,000-30,000 | 35,000-50,000 | 50,000-80,000 |
| 日本語スピーカー | 25,000 | 30,000-40,000 | 45,000-65,000 | 65,000-100,000 |
給与相場から見える3つの重要ポイント
上記の相場データから、採用担当者が押さえておくべき3つのポイントがあります。
1. 新卒は職種に関わらず月収2万バーツ程度が標準
ほとんどの職種で、新卒の給与は月収2万バーツが相場です。ただし、ITエンジニア、公認会計士、日本語スピーカーなど専門性の高い職種では、新卒でも2.5万バーツ以上の設定が必要になります。
2. マネージャー職は職種によって給与レンジが大きく広がる
新卒やジュニアレベルでは同じ職種内での給与差は限定的ですが、マネージャー職になるとレンジの幅が大きく拡大します。例えば経理職の場合、ジュニア時代は2.5万~3.5万バーツですが、マネージャーになると6万~12万バーツと倍以上の差が生まれます。これは、優秀なマネージャーには高い給与を出してでも採用したいという企業が一定数存在するためです。
3. バンコク郊外・工業団地では相場の8~9割が目安
バンコク郊外や工業団地エリアでは、バンコク中心部の相場の8割~9割が給与の目安となります。例えばバンコクで月収3万バーツのポジションなら、地方では2.4万~2.7万バーツが適正です。地方だからといって極端に下げすぎると、やはり人材は集まりません。
まずは自社の採用ポジションの相場がいくらなのか、現在の給与設定が相場レンジ内に収まっているかを確認することから始めましょう。
日系・外資・ローカル企業の給与水準比較|独自調査データで見る実態
「日系企業はタイ人に人気がない」「外資系の方が給与が高いから勝てない」――こうした声を耳にすることがありますが、実際のところ日系企業と外資系・ローカル企業との給与格差はどの程度あるのでしょうか。
弊社RCXがタイで働くタイ人約2,500名を対象に実施した独自アンケート調査をもとに、年代別・企業カテゴリ別の給与水準を比較したデータをご紹介します。
年代別・企業カテゴリ別の給与水準比較(日系企業を100とした場合)
| 年齢層 | 日系企業 | 外資系企業 | ローカル企業 |
|---|---|---|---|
| 25歳以下 | 100 | 101 | 97 |
| 29歳以下 | 100 | 105 | 95 |
| 30代 | 100 | 117 | 108 |
| 40代 | 100 | 112 | 102 |
| 50代 | 100 | 119 | 93 |
データから見える3つの重要な事実
このデータから、タイの採用市場における3つの重要な構造変化が見えてきます。
1. 25歳以下の若手層では日系・外資・ローカルにほとんど差がない
25歳以下の層を見ると、日系が100に対して外資が101、ローカルが97と、ほぼ同水準です。これは、外資系企業が新卒層を積極的に採用していないことが理由です。新卒を採用して育成しているのは主に日系企業であり、新卒採用では日系企業が外資系と競合しにくいという構造があります。有名大学のトップ層学生も、日系企業で十分に採用可能です。
2. 30代以降は日系と外資系に給与差が開く
30代では日系100に対して外資が117、40代では112、50代では119と、外資系の方が10~20%高い水準になっています。ただしこれは全職種の平均であり、マネージャー職、営業、IT、会計士、経理といった職種ではさらに大きな差が生じます。また外資系と一口に言っても、欧米系・中華系・韓国系・インド系など様々であり、職種や企業の国籍によっては月収ベースで1.5倍~2倍になることもあります。
3. ローカル大手企業も日系とほぼ同じ水準に到達
ここが最も重要なポイントです。ローカル企業の給与水準を見ると、25歳以下で97、29歳以下で95、30代で108、40代で102と、日系企業とほぼ同じか、年代によってはそれを上回る水準になっています。10年前までは日系企業の方がローカル企業よりも給与が高く、「日系企業だから魅力的」という時代がありました。しかし、タイのローカル大手企業の成長とともに給与水準が年々上昇し、今では日系とほぼ同水準まで追いついています。
つまり、日系企業が戦う相手は外資系だけではなくなったのです。かつての「日系 vs 外資」という構図は、今や「日系 vs 外資 + ローカル大手」という構造に変化しています。この現実を理解しているかどうかで、採用戦略は大きく変わってきます。
次のセクションでは、この厳しい競争環境の中で、総人件費を増やさずに採用競争力を高める具体的な方法を解説します。
総人件費を上げずに競争力を高める給与設定の方法
ここまでの説明を聞いて、「では日系企業も外資系並みに給与を上げるべきなのか」と感じた方もいるかもしれません。しかし、それは現実的ではありません。本社から渡される予算や給与テーブルの制約があり、簡単に人件費を増やすことはできないのが実情です。
ここでご紹介するのは、総人件費を増やさずに給与の魅力を高める方法です。その鍵を握るのが、日本人とタイ人の給与に対する考え方の違いを理解し、活用することです。
タイでは「年収」ではなく「月収」が給与の基準
日本では給与と言えば年収で考えるのが一般的です。「年収400万円」「年収600万円」という具合に、1年間のトータルで捉えます。住宅ローンの審査や所得証明も、基本的に年収ベースで行われます。
ところが、タイでは事情が全く異なります。タイ人は自分の給与を月収で捉えており、転職の判断も月収ベースで行います。理由は明確です。タイでは住宅ローン、車のローン、各種審査がすべて月収ベースで行われるからです。日本人の駐在員が現地法人の従業員の所得証明に署名する際も、すべて月収で記載されています。
実際、タイの求人サイトを見ていただくとわかりますが、どの求人票にも月収しか書かれておらず、年収は記載されていません。つまり、タイ人にとって「年収」という数字はピンと来ないのです。
日系企業と外資系企業の給与構造の違い
ここで、日系企業と外資系企業の給与構造の違いを見てみましょう。
| 項目 | 外資系企業 | 日系企業(従来型) |
|---|---|---|
| 月収 | 高め | 抑えめ |
| ボーナス | 控えめ(1ヶ月分または支給なし) | 手厚い(3~8ヶ月分) |
| 年収総額 | 日系とほぼ同じケースが多い | 外資とほぼ同じケースが多い |
| 求人票での見え方 | 月収が高く見える | 月収が低く見える |
外資系企業は月収を高めに設定し、その代わりボーナスは控えめという設計です。月々の支給額を手厚くして、候補者に高い月収を見せる戦略を取っています。
一方、日系企業は従来型の日本的給与設計をそのまま持ち込んでいるケースが多く、月収は抑えめ、ボーナスは3~8ヶ月分という構造になっています。
ここで気づいていただきたいのは、年収の総額で比較すると、日系と外資で大きな差がないケースが多いということです。しかし、タイ人は月収で見ているため、外資系の方が魅力的に映ってしまうのです。これが、日系企業が採用で不利になっている理由の一つです。
具体例で見る「月収重視」の効果
以下の2つのパターンを比較してみましょう。
| パターン | 月収 | ボーナス | 年収合計 |
|---|---|---|---|
| パターン1(従来型日系) | 30,000バーツ×12ヶ月 | 5ヶ月分 | 510,000バーツ |
| パターン2(月収重視型) | 40,000バーツ×12ヶ月 | 1.5ヶ月分 | 520,000バーツ |
年収総額はほぼ同じ(510,000バーツ vs 520,000バーツ)ですが、月収ベースで見ると3万バーツと4万バーツで大きな差があるように見えます。求人サイトに掲載されるのは月収レンジだけであり、タイ人候補者の目に入るのは月収4万バーツという数字です。月収3万バーツの求人と月収4万バーツの求人、どちらが魅力的に映るかは明らかです。
つまり、ボーナスを少なくして月収を多く見せることで、総人件費を増やさずに月収を高く見せることができます。会社から見ると支払う総額はほとんど変わりませんが、候補者から見える給与は大きく変わるのです。
実際、弊社の経験でも、月収が上がるという理由で年収が下がる転職を選ぶタイ人を数多く見てきました。それほどタイ人にとって月収は重要なのです。日本人の感覚では違和感があるかもしれませんが、これがタイの現実です。
給与配分変更の注意点
給与のトータル額を上げるのは会社の予算や方針があって簡単ではありませんが、配分を変えるだけなら検討の余地があります。ただし、1点だけ気をつけていただきたいことがあります。
それは、一度上げた月収は後から下げられないということです。ボーナスは会社の業績に応じて減らすことができますが、月収はそうはいきません。労働法上も月収の引き下げは非常に困難です。ですから、月収を上げる際は慎重に検討していただく必要があります。
採用プロセス全体の中で、給与設定や条件提示をどう進めるかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
次のセクションでは、これまでの内容を踏まえた上で、タイ人を採用する際に考慮すべき背景や文化的要因について補足します。
タイ人が給与にこだわる背景|社会保障と家族への責任
日本人の転職では、給料が多少下がっても経験やキャリアのために転職する、というケースが珍しくありません。「給料は少し下がるけど、この会社でなら挑戦したい」「ポジションが上がるなら一時的な収入ダウンは仕方ない」――こうした判断は日本ではよくある話です。
一方、タイで採用に関わっている日本人の多くが、「タイ人はやたらと給料にこだわる」と感じた経験があるのではないでしょうか。日本人と違って、タイ人は給料が下がったら絶対に転職しません。これは決してタイ人がシビアだからではなく、ちゃんとした理由があります。
給与が重視される3つの背景
1. 給与水準の割に物価が高い
タイは給与水準の割に物価が比較的高く、日本人駐在員でも最近の物価上昇を実感しているのではないでしょうか。タイ人にとって、生活コストは決して軽くありません。
2. 社会保障が日本ほど手厚くない
タイの社会保障制度は日本と比べて脆弱であり、老後の年金や医療保障が十分ではありません。そのため、将来への備えを自分で用意する必要があります。
3. 親の面倒を見る責任が重い
日本とは異なり、タイでは親御さんの面倒は国ではなく、働き手である従業員が見る必要があります。家族を支える責任が非常に重いのです。
物価が高く、社会保障も脆弱、家族を支える責任も重い――こうした背景があるからこそ、タイ人にとって給与額は日本以上に切実な問題なのです。
ですから、どれだけ魅力的な仕事内容やキャリアパスを用意しても、給与が市場相場に達していなければ退職されてしまい、優秀な人材を採用することも難しくなります。これがタイでの採用の現実です。
まとめ|タイで優秀な人材を採用するための給与設定3つのポイント
本記事では、タイで優秀なタイ人を採用するための給与設定について、独自調査データをもとに詳しく解説しました。最後に、重要なポイントを3つにまとめます。
- 給与相場を知ることが採用活動のスタートライン:職種・ポジション・エリアごとに相場が決まっており、これを下回ると人材は集まりません。まずは自社の採用ポジションの相場を正確に確認しましょう。
- 採用競争の構造が変化している:日系企業は外資系だけでなく、ローカル大手企業とも競争する時代です。特に30代以降の優秀層では、給与水準に差があることを認識し、戦略的に対応する必要があります。
- タイでは月収が最重視される:タイ人は給与を月収ベースで判断します。手厚いボーナスを月収に寄せることで、総人件費を増やさずに給与の魅力を高めることができます。これが日系企業ならではの現実的な戦略です。
今回の内容を踏まえて、「自社の給与設定を見直した方がいいかもしれない」と感じていただけたなら幸いです。タイでの採用成功には、相場の正確な理解と、タイ人の給与に対する考え方を踏まえた柔軟な設計が不可欠です。
弊社RCXでは、タイ人と日本人の採用支援を行っております。給与設定について詳しく知りたい方、個別のご相談をされたい方は、お気軽にお問い合わせください。皆様の採用活動が成功することを心より願っております。
