タイで採用活動をしていると、「タイの失業率は1%を切っている」という数字を目にすることがあります。日本の約3分の1、世界平均(約5%)の5分の1という驚異的な低さです。この数字だけを見ると「タイは完全雇用で、採用市場に人材は残っていないのでは」と不安になる採用担当者の方も多いのではないでしょうか。
一方で、タイの景気が力強いとは言い切れない状況が続いています。自動車は売れにくく、工場では「人が採れない」という声が聞かれる一方、街の屋台は今日も大繁盛。このちぐはぐな状況に違和感を持ったことはありませんか。
実はこの0.9%という失業率は、数字が示すほどの「人手不足」を意味していません。この記事では、タイの低失業率の正体と、なぜ景気が良くないのに失業率が低いままなのかを解説します。読み終わる頃には、採用戦略を立てるうえでこの数字に振り回されなくなるはずです。
この記事は、RCXのYouTube動画の内容をもとに再構成したものです。
タイの失業率は0.9%|世界的に見ても異例の低さ
まず数字の現在地を確認しましょう。2026年第1四半期のタイの失業率は0.94%。ここ数年はおおむね1%前後で推移しています。
| 時期 | 失業率 | 状況 |
|---|---|---|
| 2020年(コロナ前後) | 約1%台 | コロナ禍の影響が出始める |
| 2021年夏 | 2.25% | 失業者は87万人まで増加(ピーク) |
| 2023〜2024年 | 1%前後 | じわじわと低下 |
| 2026年第1四半期 | 0.94% | 0.9%台に落ち着く |
ここで1つ引っかかる点があります。タイの景気はコロナ後、力強く回復したわけではありません。それなのに失業率の水準は低いまま。つまり、景気の良し悪しが失業率に反映されにくいという「ねじれ」が存在するのです。このねじれこそが、今回のテーマの入り口になります。
失業率の数え方は日本と同じ|特殊な統計ではない
「タイの統計は数え方が特殊なのでは?」と疑いたくなりますが、結論から言うと数え方は国際基準どおりです。失業率は「失業者 ÷ 働く人全体」で計算され、ポイントは分子、つまり誰が失業者に数えられるかです。
ここで押さえておきたいルールが2つあります。
- 調査週に1時間でも働いていれば、その人は就業者(失業者ではない)
- 給料をもらっていなくても、家族の店や畑を手伝っていれば就業者
意外に思えるかもしれませんが、この2つのルールは日本もまったく同じです。ILO(国際労働機関)の基準に基づいた、ごく標準的な数え方です。つまり、タイの失業率の低さは特殊な統計のせいではないのです。では一体、何が原因なのでしょうか。
低失業率の正体は「働く人の半分を占めるインフォーマル雇用」
結論をはっきり言うと、タイでは働く人の約半分が、会社にきちんと雇われていない「インフォーマル」と呼ばれる働き方をしています。インフォーマルとは、ざっくり言えば「会社に雇用されず、社会保険の外で働く人」のことです。
具体的には、次のような人たちがこの層に含まれます。
- Grabなどのバイクタクシーの運転手
- 市場や路地で店を出す屋台の店主
- 案件ごとに仕事を受けるフリーランス
- タイの労働人口の約3割を占める農家(その大半がインフォーマル)
2024年の調査データでは、その規模は次のとおりです。働く人のちょうど半分ずつに分かれている構造がわかります。
| 働き方 | 割合 | 人数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| インフォーマル雇用 | 52.7% | 約2,110万人 | 社会保険の外。自営業・農家・フリーランスなど |
| フォーマル雇用 | 47.3% | 約1,890万人 | 社会保険のある企業雇用 |
なぜインフォーマル雇用が多いと失業率が低く出るのか
ここが一番のカラクリです。鍵は先ほどの「就業者のルール」にあります。自営業や農家、家業の手伝いをしている人は、仕事が激減しても週1時間働けば就業者。無給で家族を手伝っていても就業者です。つまり、少しでも手を動かしている限り、失業者として統計に表れないのです。
「100人の村」で考えるとわかりやすい
タイで働く人を100人の村に例えてみましょう。このうち50人以上が自営業・農家・家族の手伝い、つまり雇われていない人です。この50人は、仕事が減っても週1時間働けば就業者としてカウントされ、失業者にはなりません。
残りの50人弱が会社に雇われている人で、失業者として表に出やすいのは主にこの層です。しかも、その全員が職を失うわけではなく、実際に失業するのはほんの一握り。結果として、100人の村で失業者は1人いるかいないか。だから失業率は1%前後という小さな数字になるのです。
計算式で見ても同じことです。失業率の分母(働く人全体)の半分以上が「そもそも失業者として表に出にくい人たち」で占められているため、景気が悪くても分子(失業者)が膨らまない。大きな分母と小さな分子の割り算の答えは、必然的に小さくなります。
日本とタイの雇用構造はちょうど逆
興味深いことに、日本はこれとちょうど逆の構造です。日本では働く人の約9割が雇われている人で、自営業や家族の手伝いは1割ほどしかいません。雇われている人は職を失えば失業者になるため、不景気がそのまま数字に表れます。
| 項目 | タイ | 日本 |
|---|---|---|
| 雇用されている人の割合 | 約5割弱 | 約9割 |
| 自営業・家族従事者など | 約5割超(インフォーマル中心) | 約1割 |
| 景気悪化時の失業率 | 上がりにくい | 数字に表れやすい |
| 統計の数え方 | ILO国際基準 | ILO国際基準(同じ) |
同じ計算式でも、「失業者になりうる人」が最初からどれだけいるかが日本とタイではまるで違います。数え方ではなく働き方の中身が違う——これが、両国の失業率がここまで違う理由です。
日系企業の採用担当者はこの数字をどう読むべきか
ここまでの内容を踏まえると、タイの失業率0.9%という数字から導かれがちな2つの誤解が見えてきます。
| よくある誤解 | 実際のところ |
|---|---|
| 失業率が低い=完全な人手不足で誰も採れない | インフォーマル層が分母の半分を占めるため、数字ほどの逼迫を意味しない |
| 景気が悪い=採用しやすい | 景気悪化が失業率に表れにくく、転職市場に人が急に増えるわけでもない |
とはいえ、統計の分母構造が日本と異なるとしても、タイの失業率が低いこと自体は事実です。フォーマル雇用の労働市場に人材がなかなか出てこない以上、企業もまた「選ばれる側」であることに変わりはありません。まずは採用プロセス全体を俯瞰し、自社のどこにボトルネックがあるかを整理することから始めるのがおすすめです。


「選ばれる会社」になるうえで最初に見直したいのが給与設定です。日系・外資・ローカル企業の給与相場を把握せずに求人を出しても、候補者の応募にはつながりません。相場感を踏まえた競争力のある給与レンジの設計方法は、こちらの記事で詳しく解説しています。


あわせて、タイ人材が重視する福利厚生・待遇も差別化の大きな武器になります。給与だけで勝負できない場合でも、福利厚生の設計次第で採用競争力は大きく変わります。


失業率の数字に一喜一憂するのではなく、自社が選ばれる準備を少しずつ整えておく。それが遠回りのようで、タイ採用における一番の近道です。
まとめ
最後に、この記事の重要ポイントを整理します。
- タイの失業率は0.94%(2026年第1四半期):世界的に見て極めて低い水準だが、好景気だからではない
- 数え方は日本と同じILO国際基準:週1時間でも働けば就業者、無給の家族手伝いも就業者としてカウントされる
- 低さの正体はインフォーマル雇用:働く人の52.7%(約2,110万人)が社会保険の外で働き、失業者として統計に表れにくい
- 日本とは雇用構造が逆:日本は約9割が被雇用者のため不景気が数字に表れるが、タイは表れにくい
- 「失業率が低い=誰も採れない」も「景気が悪い=採用しやすい」も誤解:数字を鵜呑みにせず市場構造を理解することが重要
- 企業は「選ばれる側」:給与設定や福利厚生など、選ばれる会社になる準備を整えることが採用成功の近道
RCXでは、タイ人材と日本人材の採用支援を行っています。タイでの採用にお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。











