タイで採用活動をしていると、「内定を承諾してもらった候補者が入社日に来なかった」「入社直前に突然辞退の連絡が来た」という経験をされた採用担当者の方は少なくないはずです。長い選考プロセスを経てようやく承諾までたどり着いたのに、最後の最後で振り出しに戻ってしまう——これはタイの採用市場では決して珍しいことではありません。
実は、内定承諾から入社までには多くの場合1ヶ月ほどの空白期間があり、この間に候補者の気持ちが揺らいでしまうことが、ノーショーや入社前辞退の大きな原因になっています。
この記事では、なぜノーショーや入社前辞退が起きるのか、その3つの原因と、コストをかけずに今日から始められる3つの防止策を、タイで採用活動を行う日系企業の採用責任者・人事担当者向けに解説します。
この記事は、RCXのYouTube動画の内容をもとに再構成したものです。
ノーショーと入社前辞退とは?内定承諾はゴールではない
まず言葉を整理しておきましょう。今回取り上げるのは、ノーショーと入社前辞退の2つです。どちらも内定承諾後に発生するトラブルですが、起きるタイミングが異なります。
| 用語 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| ノーショー | 内定を承諾したのに、入社日に出社してこない | 連絡なしで来ないケースも多く、当日まで気づけない |
| 入社前辞退 | 承諾はしたものの、入社日を迎える前に辞退の連絡が来る | 事前に連絡はあるが、採用活動は振り出しに戻る |
「承諾してもらえたのだから、もう決まったようなもの」と考えてしまいがちですが、実態は違います。タイの採用市場ではオファー承諾率は平均70%程度ですが、実は承諾してもらった後にももう1つの関門があるのです。
候補者は承諾後すぐに入社できるわけではありません。現職の会社を辞めるのに多くの場合1ヶ月ほどの期間が必要です。つまり、承諾から入社まで約1ヶ月の空白期間が生まれ、ここで候補者の気持ちが揺らいでしまうのです。
採用プロセス全体の流れを整理したい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。


承諾から入社までの1ヶ月に何が起きているのか
候補者の入社意欲が最も高まっているのは、実は面接のタイミングです。そこから時間が経つほど、入社したい気持ちは少しずつ冷めていきます。
そして、ちょうど熱が冷めかけた頃に、現職からの強い引き止め(カウンターオファー)が入ったり、並行して選考が進んでいた他社からより良い条件のオファーが出たりします。こうなると、一度決まったはずの気持ちが簡単に揺らいでしまうのです。これがノーショーや入社前辞退が起きるメカニズムです。
ノーショー・入社前辞退が起きる3つの原因
原因を具体的に見ていきましょう。大きく分けて3つの原因があり、それぞれ対策の可否が異なります。
| 原因 | 内容 | 会社側の対策 |
|---|---|---|
| ①カウンターオファー | 現職からの強い引き止め(昇給・昇進の提示など) | 対策可能 |
| ②他社からの好条件オファー | 並行選考していた他社からより良い条件が提示される | 対策可能 |
| ③想定外の事情 | 本人・家族の体調不良、親の介護、帰郷など | 対策困難(運の要素) |
原因1:現職からのカウンターオファー
候補者が現職に退職を申し出ると、会社側も良い人材を簡単には手放したくありません。「給与を上げるから残ってくれないか」「次の昇進は君だと考えていた」といった引き止め(カウンターオファー)を受けるのです。特にタイは失業率が1%前後の売り手市場であり、優秀な人材ほど現職も必死に引き止めます。
「承諾したのだから心は決まっているはず」と考えるのはよくある勘違いです。実際には、承諾後でも現職の引き止めで候補者の気持ちは揺らぎます。
原因2:他社からのより良い条件のオファー
優秀な候補者は、自社だけでなく複数の会社の選考を並行して進めています。自社の承諾をもらった時点では他社の選考が途中で、その後に「給与が高い」「ポジションが上」「家から近い」といったより良い条件のオファーが出ることがあるのです。
ここで注意したいのは、これは候補者が不誠実だからではないという点です。タイではオファー承諾後でも他社の面接を受けることは珍しくありません。だからこそ、承諾後も「やっぱりこの会社にしよう」と思い続けてもらう工夫が必要なのです。
他社に条件面で負けないためには、そもそもの給与設定も重要です。タイの給与相場については以下の記事で詳しく解説しています。


原因3:想定外の事情
本人や家族が体調を崩した、親の面倒を見ることになった、家庭の事情で田舎に帰ることになった——タイには家族を自分たちで支える文化があり、働き手が親の面倒を見るのはごく一般的です。こうした事情による辞退は、会社側の努力では防ぎきれない運の要素でもあります。
したがって現実的なゴールは、ノーショーを完全にゼロにすることではなく、防げる部分(原因1・2)をしっかり防ぐことだと考えてください。
コストゼロで今日からできる!ノーショーを防ぐ3つの対策
対策のポイントはたった1つ。「入社したい」という気持ちを入社の日まで冷まさないことです。これは引き止めにも他社オファーにも共通して効きます。そのための対策が3つあり、どれもお金をかけずに今日から始められるものばかりです。
| 対策 | 具体的なアクション | 効果 |
|---|---|---|
| ①こまめな連絡 | 入社日前のメッセージ、不安のヒアリング、チームの様子の共有 | 「歓迎されている」実感が気持ちの冷めを防ぐ |
| ②入社書類の早期提出 | 雇用契約書や入社時提出書類を早めに出してもらう | 「準備を始めている」状態が心理的ブレーキになる |
| ③入社前の接点づくり | チームランチへの招待、オフィス見学、書類の直接持参 | 「知らない会社」でなくなり引き止めに揺らぎにくくなる |
対策1:承諾後こそこまめに連絡を取る
「承諾後は入社を待つだけでいい」というのはよくある勘違いです。会社から連絡が来ないと、候補者は「本当に自分は歓迎されているのかな」「この会社に決めて良かったのかな」と不安を感じ、入社意欲が下がっていきます。
やることはシンプルです。入社日が近づいたら「あと2週間ですね、楽しみにしています」と一言送る。「不安なことや聞きたいことはありませんか」と声をかける。配属先チームの様子を少し伝える。この程度の連絡で十分です。実際に、承諾後にすぐ連絡をしなかったり、こまめな連絡を怠ったりしたことでオファーを辞退されてしまったケースも現実に起きています。
対策2:入社書類を早めに出してもらう
雇用契約書や入社時に必要な提出書類を、早めに提出してもらいましょう。ここで大事なのは書類そのものではなく、候補者にとって「入社の準備をもう始めている」という状態を作ることです。
人は自分が時間や手間をかけたものほど、簡単には手放せなくなります。他社から良い条件のオファーが出たとしても、「もう書類も出したし、準備も進めているし」という気持ちが心理的なブレーキになってくれるのです。
対策3:入社前に会社やチームとの接点を作る
配属予定のチームのランチに招待する、オフィスに直接入社書類を届けてもらう、オフィスを軽く見学してもらう——こうした入社前の接点づくりが非常に効果的です。
現職から引き止められたとき、候補者は「知っている会社」と「まだよく知らない会社」の間で迷います。人は知らない方に不安を感じるものです。しかし入社前に新しい会社の人たちと会っていれば、「あの人たちと一緒に働くんだ」という具体的なイメージが湧き、もう知らない会社ではなくなります。こうなると、現職の引き止めにも他社の誘いにも気持ちが揺らぎにくくなるのです。
採用の上流から見直すことも忘れずに
今回の3つの対策は、いわば採用プロセスの最終盤の守りです。あわせて意識したいのが、選考プロセス自体のスピードです。選考が長引くほど候補者の並行選考が進み、他社オファーに競り負けるリスクが高まります。
書類選考から面接、オファーまでのスピードを上げる方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。


選考スピードの改善と承諾後のフォローを両輪で回すことで、採用の歩留まりは大きく改善します。せっかく採用コストと時間をかけて獲得した候補者を、最後の1ヶ月で失わない体制を整えましょう。
まとめ:候補者の気持ちを入社日まで冷まさない
今回は、タイ人採用におけるノーショー・入社前辞退の原因と防止策をお伝えしました。重要ポイントを整理します。
- 承諾から入社まで約1ヶ月の空白期間があり、この間に候補者の気持ちが揺らぎやすい
- ノーショーの3大原因は「現職のカウンターオファー」「他社の好条件オファー」「想定外の事情」
- 想定外の事情は防げないが、引き止めと他社オファーには会社側の工夫で対策できる
- 対策1:こまめな連絡で「歓迎されている」と感じてもらい、入社意欲の低下を防ぐ
- 対策2:入社書類の早期提出で「もう準備を始めている」という心理的ブレーキを作る
- 対策3:入社前の接点づくりでチームランチやオフィス見学を通じて「知っている会社」になる
- すべての対策の核心は、候補者の「入社したい」気持ちを入社日まで冷まさないこと
どの対策もコストはほとんどかからず、今日からすぐに始められるものばかりです。この記事をきっかけに、オファー承諾後のフォロー体制をぜひ一度見直してみてください。











