タイで新卒採用を検討する日系企業の採用担当者から、「社会人経験のない新卒を、何を基準に選べばいいのかわからない」という声をよく耳にします。日本の新卒採用の感覚をそのまま持ち込むと、タイでは思わぬミスマッチが起きてしまいます。
実はタイの新卒採用には、日本とは大きく異なる3つの評価軸があります。それが「大学ランキング」「GPAと称号」「サハキット(インターンシップ制度)」です。
この記事では、タイの新卒採用で押さえておくべき基礎知識を3つのポイントに整理してお伝えします。読み終わる頃には、新卒の候補者を見る際の「軸」ができているはずです。
この記事は、RCXのYouTube動画の内容をもとに再構成したものです。
前提知識:タイの新卒採用は日本とルールが違う
3つのポイントに入る前に、まずタイで新卒採用を行う際の前提を整理しておきましょう。ここを理解しておくと、この後の話がぐっと入りやすくなります。
タイの大学は日本のように3月一斉卒業・4月一斉入社という習慣がありません。多くの大学では授業や試験が4月〜5月頃に終わりますが、大学や学部によって時期は異なります。試験を終えて必要な単位を満たし、大学から卒業認定を受ければ「就業できる状態」になります。
さらにややこしいのが卒業式です。タイの有名大学では王室の方が卒業証書を一人ひとりに手渡しする国家的な儀式のため、王室のスケジュールに合わせて卒業式の時期が毎年変わります。授業終了から数ヶ月後、場合によっては10月をまたいで翌年1月〜2月になることもあるのです。
| 項目 | 日本 | タイ |
|---|---|---|
| 卒業時期 | 3月に一斉卒業 | 大学・学部によりバラバラ(授業終了は4〜5月頃が多い) |
| 入社時期 | 4月一斉入社 | 企業・個人により異なる |
| 就活開始 | 解禁日あり・在学中に一斉開始 | 卒業前も卒業後もあり、人によってバラバラ |
| 大学進学率 | 約59%(2024年) | 約46%(2023年) |
| 男女別進学率 | — | 男性40%・女性52%(女性の方が高い) |
就活のタイミングも人それぞれで、卒業して数ヶ月後、ときには1年経ってから就活を始めるケースも珍しくありません。この前提を頭に入れた上で、採用の際に具体的に何を見ればよいのか、3つのポイントを順番に見ていきましょう。
ポイント1:大学ランキング|世界ランキングと「雇用者評価」の2軸で見る
どこの大学から採用するのか。これが新卒採用のいちばんの軸になります。タイの大学を評価する際は、2種類の視点で見ることが重要です。
QS世界大学ランキングで全体像をつかむ
まず多くの方がイメージするのが、QSなどの世界大学ランキングです。QS世界大学ランキング2027年版におけるタイ国内トップ10は以下のとおりです。
| 国内順位 | 大学名 |
|---|---|
| 1位 | チュラロンコン大学 |
| 2位 | マヒドン大学 |
| 3位(同率) | タマサート大学/チェンマイ大学 |
| 5位 | カセサート大学 |
| 6位 | プリンス・オブ・ソンクラー大学 |
| 7位 | コンケン大学 |
| 8位 | キングモンクット工科大学トンブリー校 |
| 9位 | キングモンクット工科大学ラカバン校 |
| 10位(同率) | シーナカリンウィロート大学/スラナリー工科大学/ワライラック大学/キングモンクット工科大学ノースバンコク校 |
タイのトップを走るのはチュラロンコン大学で、国内では18年連続1位。日本でいう東京大学のようなポジションです。また、それぞれの大学には強い学部があります。
| 分野 | 強い大学 |
|---|---|
| エンジニアリング | キングモンクット工科大学3校(トンブリー・ラカバン・ノースバンコク) |
| 医療・看護・薬学 | マヒドン大学 |
| 法律・政治・経済 | タマサート大学 |
| 農業・食品 | カセサート大学 |
| 総合(全学部が高水準) | チュラロンコン大学 |
採用担当者が見るべき「エンプロイヤーレピュテーション」
世界大学ランキングは研究力・教育環境・国際性などを含む総合評価ですが、採用担当者にぜひ見ていただきたいもう1つの指標がエンプロイヤーレピュテーション(雇用者評価)です。これはQSの中にある採用向けの指標で、企業や採用担当者が大学をどれだけ評価しているかを示す、まさに採用現場の声です。
| 順位 | 大学名 | 雇用者評価スコア |
|---|---|---|
| 1位 | チュラロンコン大学 | 50.2 |
| 2位 | マヒドン大学 | 34.9 |
| 3位 | タマサート大学 | 32.9 |
| 4位 | カセサート大学 | 31.5 |
| 5位 | チェンマイ大学 | 27.3 |
雇用者評価でもチュラロンコン大学が圧倒的です。世界ランキングで全体像を見つつ、採用ではこの雇用者評価と学部の強みを組み合わせて見るのがおすすめです。
ポイント2:GPAと称号|タイでは就職に直結する重要シグナル
2つ目のポイントはGPAと称号です。ここも日本とはかなり扱いが異なります。日本の新卒採用ではGPAはあまり重視されず、人柄やポテンシャルが中心ですよね。しかしタイではGPAが就職に直結するため、学生も良いGPAを取るのに必死です。
GPAは4.0満点で評価されます。実際に求人票の応募条件に「GPA3.0以上」と明記されているケースもあり、日系企業でも応募要件を2.5や3.0以上に設定している企業が一定数あります。求人票への条件の書き方については、こちらの記事も参考になります。


そしてもう1つ重要なのが称号(オーナーズ)です。履歴書に「First Class Honours」「Second Class Honours」と書かれているのを見たことはありませんか?ここで誤解しやすいのが、ファーストクラス=首席だと思ってしまうこと。実は違います。これは順位ではなく、決められたGPA基準を満たした人全員につくラベルなのです。
| 区分 | GPAの目安 | 意味 |
|---|---|---|
| ファーストクラス・オーナーズ | 約3.5〜3.6以上 | 基準を満たした全員につく称号(首席の意味ではない) |
| セカンドクラス・オーナーズ | 約3.25以上 | 基準を満たした全員につく称号 |
| 安心ライン | 3.0以上 | 応募できる求人がぐっと増える水準 |
| 足切りラインの目安 | 2.5 | 企業によっては応募の最低ライン |
学部によっては半数以上がファーストやセカンドということもあり得ます。また、GPAはあくまで相対評価である点にも注意が必要です。チュラロンコン大学の3.2と無名校の3.8は同じではありません。そして高いGPAが必ずしも実務の強さを保証するわけでもない。だからこそ、次の3つ目のポイントが大事になります。
ポイント3:サハキット|採用の隠れた本命となるインターン制度
3つ目のポイントはサハキットです。ここが新卒採用の隠れた本命かもしれません。サハキットとは、タイの大学におけるインターンシップの仕組みのことです。
「インターン経験なんておまけでしょう」と勘違いされがちですが、タイでは意味合いがまったく異なります。きちんとしたサハキットは3ヶ月〜6ヶ月のフルタイム勤務。日本の1日2日の会社見学とは別物で、社員と同じように実務を任されるのです。
ただし1つ大事な前提として、サハキットはすべての大学・学生に必須というわけではなく、大学や学部によって扱いが異なります。ざっくり以下の3パターンがあります。
- 必須:卒業要件としてサハキットが組み込まれているパターン
- 選択制:学生が履修するかどうかを選べるパターン
- 制度枠なし:学部にサハキットの枠がなく、参加機会自体がないパターン
ではなぜサハキットが採用のポイントになるのか。それは、サハキットをやり切った学生はいくつもの関門を通過しているからです。参加前に大学が定めるGPA基準をクリアし、事前のキャリア研修や面接をパスし、そのうえで約4ヶ月間フルタイムで勤務する。つまり、ビジネスの基礎・真面目さ・実践力がある程度担保されている可能性が高いのです。
一方で、サハキット未経験の学生がダメかというと、一概には言えません。大学院進学のため研究に専念した人や、そもそも学部にサハキットの枠がなかった人もたくさんいます。書類選考の段階では、経験の有無だけで機械的に判断しないことが大切です。


面接では、サハキット経験者には「中身」を深掘りしましょう。どこの会社で、どんな仕事をして、どんな成果を出したのか。GPAが学力を映すなら、サハキットは実務力を映す。ここを掘り下げると、候補者の実務力がかなり見えてきます。
日本式をそのまま持ち込まない|タイの新卒採用は「設計」が違う
ここまで見てきたとおり、タイの新卒採用は測定可能な情報を先行材料として見やすいのが特徴です。GPA、称号、サハキット経験といった客観的なシグナルが履歴書に揃っています。一方、日本は人柄やポテンシャルを重視する文化。どちらが良い悪いではなく、採用の設計が違うだけなのです。
だからこそ、日本式の選考基準をそのまま持ち込むとミスマッチが起きます。逆に言えば、見るところさえ切り替えれば、良い人材は必ず見つかります。新卒採用も含めた採用プロセス全体の設計については、こちらの記事で体系的に解説しています。


採用に絶対の正解はありません。しかし、見るべきポイントを整理するだけで、選考の迷いはぐっと減るはずです。
まとめ:タイの新卒採用で見るべき3つのポイント
最後に、この記事の重要ポイントを整理します。
- 前提の違い:タイには3月卒業・4月一斉入社の習慣がなく、卒業も就活の時期も人によってバラバラ。大学進学率は約46%で女性の方が高い
- 大学ランキング:QS世界ランキングで全体像を見つつ、採用では雇用者評価(エンプロイヤーレピュテーション)と学部の強みで判断する。国内トップはチュラロンコン大学
- GPAと称号:GPAは就職に直結する重要シグナル。足切りは2.5〜3.0が目安。ファーストクラス・オーナーズは首席ではなく基準クリアのラベル
- サハキット:3〜6ヶ月のフルタイムインターン制度。経験者には中身を、未経験者にはなぜ選ばなかったのかを面接で聞く
- 採用設計の切り替え:日本式をそのまま持ち込まず、タイの評価軸に合わせて見るポイントを切り替えれば良い人材は必ず見つかる
今日の3つのポイントを、ぜひ次回の新卒採用で活用してみてください。RCXではタイ人材と日本人材の採用支援を行っています。タイでの採用にお困りの際は、お気軽にご相談ください。












